ご挨拶

船坂時間

兵庫県西宮市山口町船坂は、高原農業地としてほうれんそう・パセリなどの名産地であったり寒天作りが盛んに行われていた時期もありましたが、後継者不足により専業農家が減少し休耕田が増えました。少子高齢化により木造校舎の船坂小学校も137年の歴史に幕を下ろしてしまいました。阪神間の都会に間近でありながら自然豊かな山里を維持できた背景には、市街化調整区域を広く抱えていたことがあります。そのお陰で山あり谷あり棚田ありの日本の原風景ともいえる長閑な光景が箱庭のような区域に残りました。有馬温泉への古道や茅葺古民家など、いわれの有る名所も少なくないここを舞台に芸術祭を開催することで、新しい産業や農地再興を軸とする地域活性化のモデルを構築したいと、地域住民主導で運営されてきました。既に「小さな音楽会」「船坂新聞の発行」「手打ち蕎麦」「収穫祭」などが行われています。 2009年のプロローグでは約5000人、2010年の第一回展では約20000人の来場者を迎え、アートという新たな視点から船坂の豊かな自然や人情味に触れてもらうことが出来ました。特に2010年は「つながる」をテーマに開催しましたが、ゆったりとした時が流れる船坂の地で人と人がつながるきっかけとなりました。 阪神・淡路大震災を経験したこの地。そして2011年、日本は東日本大震災という未曾有の災害に見舞われました。あの現実を目の前に突きつけられた私たちははじめ、事の凄惨さに震撼し生き残った者が何をなすべきかさえすぐには見出せないほどでした。そうした中、政治や文化の枠を超えて世界各国から差し伸べられる支援の手に私たちはこの上ない温もりを覚え、それが復興に向けて勇気を持って進む大きな力となりました。 人と人のつながり…その意味の大きさを認識することとなった私たち。今こそ、人と人の関係性を様々な視点からあぶり出し、それらを検証するという作業が必要であると考えます。歴史的背景、文化の違い、世代、ドメスティックなことから国際的な課題に至るまで、その諸相をまずは指し示し、これからのよりよい関係性を探るためのひとつの起点としたい。この検証という作業を、アートを介して行う…それが本展のもうひとつの目的です。 今回は本格実施の2回目として、旧船坂小学校木造校舎、茅葺古民家、棚田などに加えて新たに名勝:蓬莱峡も展示場所として、前回にも増してダイナミックな展開が期待されます。かつて名産であった寒天作りを、原料産地のひとつでもあった沖縄のアートNPOと連携したり、かつて沢山の職人さんが出稼ぎに来られていた兵庫県丹波地方とも交流を行うほかにも、「ふね、やまにのぼる」では西宮浜の流木で作った「ふね」が船坂までのぼってきたりと、正に「結」ぶプロジェクト型作品が多いことも特徴です。 2010年のテーマ「つながる~relationship」は今回のテーマ「結(ゆう)~connection」に至り、さらに個々の結びつきが深化し、各展示作品やイベント、プロジェクトそれぞれがその意味合いを持って、総体として芸術祭を構築します。 特に国交正常化40周年を迎える日中の文化交流を深めるべく、先に広州で開催された「A as A Project 2012 in広州~日中現代美術交流展vol.「絆」」(広州53美術館) の企画の一環として、広州での出展作家(日中合計17名)を招聘しています。

西宮船坂ビエンナーレ総合ディレクター 藤井達矢(美術家・武庫川女子大学准教授・武庫川女子大学生活美学研究所研究員)
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